君を傷つける奴がいたら
燭台切光忠の場合
鶴丸国永の一件で、本丸業務に関わる事以外は首を突っ込まないことにしようと思っていた。
思っていたのだ。
だけど、代わり映えのない毎日を送っていると、顔を出す「出来心」。
だから、今回も出来心に突き動かされて、本丸のママこと、燭台切光忠に聞いてしまった。
「燭台切さん。もしも私が傷つけられたらどうしますか?」
「それ、鶴さんに聞いた質問だね。随分と怖がっていたのに、懲りていないのかい?」
本丸のママさんは、華麗にかつらむきをしながら、眉根を少し下げて笑った。
この人は、これが仮定の話だとちゃんと分かってくれている。そして、私が怖がらないような回答を考えてくれている。
さすがママさん。いつも食材ばっかり切ってるから、そろそろ改名した方がいいとか思ってごめんなさい。
「まあ、主が傷つけられたら、まずはその相手を確かめるね」
そうだね。相手がわからないといけない。
「相手が分かったら、一旦は直接向こうに伺って話を聞く」
なかなか穏便ですね。一旦、というのが気になるけれど。
「伺ったついでに、一つ呪詛を残しておいて」
え?今何とおっしゃいまいしたか?呪詛?
「石切丸さんあたりにもお願いして、少しの間、精神的にちょっとね」
燭台切光忠はそれはそれは、とてもいい笑顔をしていた。
その笑顔に、私が背筋が凍る。包丁片手に器用に食材を扱いながら紡がれる内容は、決して穏便などではない。鶴丸国永とはまた違った恐ろしさが垣間見えた瞬間だった。
「なんて言ったら、ほら、君は恐れるだろう?」
そんなことしないよ、と笑う燭台切光忠は、先程までの恐ろしさを全く感じさせない、困ったような笑みを浮かべていた。
おそらく、私が興味本位でいろいろな人にこの質問をしないよう、灸を据える意味も込めて言ったのだろう。刀剣男士の中には人の話を聞かず、思い込みで行動してしまうのも居る。誰とは言わないが、どこかの兼さんとか、いい例だ。
だから、彼が見せる優しさに、ふと緊張を解いた。結局、優しいみんなのママさんだ。
「でもね」
カタン、と包丁を置く音とともに、目の前に燭台切光忠のきれいな瞳が大きく広がる。
「キミが本当に助けを求めてきたら、さっき言ったことや、それ以上のことはするだろうね」
そういう彼の目は、笑っていなかった。
ママが怖い。