君は優しい
鶴丸国永の場合
それはふとしたきっかけだった。
読んでいると、柄にもない、と言われる少女漫画を読んでいた。ちょうどそのシーンでは不良に絡まれていた主人公を助けるヒーローが、それはもうかっこよく描かれていた。
普段から、
女じゃない
性別間違えてない??
本当は男だよね?
と、さんざん刀剣男士達に言われるほどずぼらで、がさつで、物臭な私でも年頃の女性だ。思わずほぅ、と感嘆の息を吐いてしまうほど、それはテンプレではあるが素敵なシーンだった。
だから、少し心が浮かれていたのだ。
隣の近侍部屋で待機している鶴丸国永に、
「もしも私が誰かに傷つけられたと知ったら、鶴丸さんはどうしますか?」
と、それこそ柄にもないことを聞いてしまった。
でも、日頃からさんざん人間扱いされていないため、どうせ「君をいじめるなんて酔狂なことをする奴が居るか」とでも言って笑い飛ばされるものだと思っていた。
ところが、鶴丸国永はスッと目を細め、殺気をまとわせ始めたのだ。
口元に笑みは浮かべている。浮かべて入るが、笑みではない。口角が上がっているだけだ。
「ほう、主を傷つける酔狂な奴が居るとは驚きだなぁ。この本丸の奴か?政府側の人間か?他本丸のやつか?それとも何だ?俺らとは違う神か?」
怖い。
こんなに怒っている鶴丸国永を見たのは始めてだ。
ジリジリとにじり寄ってくるが、彼のまとう殺気で私は全力で退避したい気持ちだ。
「主よ、黙ってたままじゃあ分からねえぜ?誰だ?俺の主を傷つける奴は」
鶴丸国永よ、違う、違うんだ。決して私は傷つけられているわけじゃない。ただなんとなく、君たちの反応を見たくて聞いただけなんだ。だから、そんな殺気立ってこっちに来るな。
と、心の中では思っているのに圧倒されて声に出せない。
なんとか目線で訴えてみようとするが、その意味を、
「ああ、怯えて声も出せないのか。まあ、いいさ。君以外のすべてを殺せば、キミを傷つける奴は居なくなる」
と、間違えて捉えていた。
思わず、喉の奥がひゅっと鳴る。
どうやら、私は最も聞いてはいけないことを、最も聞いてはいけない相手に聞いてしまったらしい。
鶴丸国永、ただのびっくりじじいだと思ってた。だけど、予想以上に狂気まみれで、正直今すぐ近侍を外したい。
その後、何とか誤解を解いたものの、その日以降、事あるごとに「誰を殺せばいい」と聞いてくるのはやめてほしい。